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東京高等裁判所 平成4年(ネ)3991号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は別紙目録1(一)ないし(三)及び同目録3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造販売してはならない。

2  被控訴人は前項のヘア・カーラー用クリップを廃棄せよ。

3  被控訴人は控訴人に対し、金一万一〇六五円及びこれに対する昭和六三年三月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じて二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決は、第一項3に限り仮に執行することができる。

四  控訴人のため、この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は別紙目録1(一)ないし(三)及び同目録3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造販売してはならない。

3  被控訴人は前項のヘア・カーラー用クリップを廃棄せよ。

4  被控訴人は控訴人に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和六三年三月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

6  仮執行宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、削除、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決二〇丁裏一行目〔知裁集二六巻二号五五八頁六行目〕の「ヘア・カーラー装置を」の次に「合計七五〇七万五〇〇〇円で」を加え、同八行目から九行目にかけて〔同上、同頁一〇行目〕の「及びその半製品」を削り、同一〇行目〔同上、同頁同行から一一行目にかけて〕の「訴状送達の日の翌日」の次に「(昭和六三年三月三〇日)」を加える。

二  同二七丁表四行目〔同上、五六二頁一行目〕の「被告装置(一)」から六行目〔同上、同頁二行目〕の「並びに」までを削り、同七行目〔同上、同頁同行〕の「訴状送達の日」の次に「(昭和六三年三月三〇日)」を加える。

三 同二八丁表七行目〔同上、同頁八行目〕の「同3(四)ないし(六)は否認する。」を「同3(四)ないし(六)のうち、各(2) は認めるが、その余は否認する。」と改める。

四  同二八裏末行〔同上、同頁一八行目〕の「(一)、(三)、(五)ないし(七)、(10)は否認する。」を「(二)、(四)、(八)は認めるが、(一)、(三)、(五)ないし(七)、(九)、(10)は否認する。」と改める。

五  同三八丁表三行目〔同上、五六七頁一五行目〕の「慈気」を「蒸気」と改める。

第三証拠関係<省略>

理由

第一意匠権に基づく請求について

一  請求の原因1のうち、控訴人が本件意匠権の設定の登録を経由したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一によれば、その余の事実が認められる。

二  請求の原因2の事実は当事者間に争いがない。

三  そこで、本件意匠と被告意匠(一)ないし(六)との類否について検討する。

1  本件意匠公報(成立に争いのない甲第一号証の二)によれば、本件意匠の基本的構成態様は、肉薄横長の板状体を幅方向に湾曲させて円弧状に形成し、その側面両側の下側部分にそれぞれ等間隔で九箇所に一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝を設けて、一〇本の一定長さ(溝の深さ)及び切込溝より幅広の略U字形脚片を形成し、クリップ体上面部には長さ方向に一定間隔で多数個の小孔を配置して成るものであること、その具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の約二・五倍、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの二分の一強、小孔はいずれも円形で同じ大きさであり、長さ方向に一〇列に配置され、第二、四、七、九列目にはクリップ体上面部の幅方向の中心線上に各一個、第一、三、五、六、八、一〇列目には右中心線を挟んで対称的に各二個、計一六個が配置されていること、が認められる。

2  被告意匠(一)ないし(六)を表す別紙目録1(一)ないし(三)、同目録3(一)ないし(三)、及び右各目録記載のヘア・カーラー用クリップであることについて争いのない検甲第四号証ないし第九号証によれば、被告意匠(一)ないし(六)の各基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりであると認められる。

(一) 被告意匠(一)ないし(三)の各基本的構成態様は、肉薄横長の板状体を幅方向に湾曲させて円弧状に形成し、その側面両側の下側部分にそれぞれ等間隔で九箇所に一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝を設けて、一〇本の一定長さ(溝の深さ)及び切込溝より幅広の略U字形脚片を形成し、クリップ体上面部には長さ方向に一定間隔で多数個の小孔を配置して成るものである。

(二) 被告意匠(一)の具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の約二倍、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの約三分の二であり、脚片の先端部が溝の方へ溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有し、小孔はいずれも幅方向に細長い楕円形で長さ方向に一〇列に配置されているが、第二、四、七、九列目には、その余の列の小孔よりやや小さい孔がクリップ体上面部の幅方向の中心線上に各一個、第一、三、五、六、八、一〇列目には右中心線を挟んで対称的に各二個、計一六個が配置され、第二、四、七、九列目の脚片からクリップ体上面部にかけて細幅の長孔が形成されている。

(三) 被告意匠(二)の具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の約二倍、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの約三分の二であり、脚片の先端部が溝の方へ溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有し、小孔はいずれも幅方向に細長い楕円形で、長さ方向に一〇列に、クリップ体上面部の幅方向の中心線を挟んで対称的に各二個、計二〇個が配置されているが、第二、四、七、九列目の小孔はその余の列の小孔より大きく形成されており、第二、四、七、九列目の脚片には細幅の長孔が形成されている。

(四) 被告意匠(三)の具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の約二倍、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの約三分の二であり、脚片の先端部が溝の方へ溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有し、小孔はいずれも幅方向に細長い楕円形で長さ方向に一〇列に配置されているが、第一、三、五、六、八、一〇列目には、クリップ体上面部の幅方向の中心線を挟んで対称的に各二個、第二、四、七、九列目には、その余の列の小孔より大きい孔が右中心線上に各一個と右線を挟んで対称的に各二個、計二四個が配置されており、第二、四、七、九列目の脚片には細幅の長孔が形成されている。

(五) 被告意匠(四)ないし(六)の各基本的構成態様は、肉薄横長の板状体を幅方向に湾曲させて円弧状に形成し、その側面両側の下側部分にそれぞれ等間隔で八箇所に一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝を設けて、九本の一定長さ(溝の深さ)及び切込溝より幅広の略U字形脚片を形成し、クリップ体上面部には長さ方向に一定間隔で多数個の小孔を配置して成るものである。

(六) 被告意匠(四)の具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の三倍強、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの約三分の二であり、小孔はいずれも幅方向に細長い楕円形で長さ方向に九列に配置されているが、第二、四、六、八列目には、その余の列の小孔より大きい孔がクリップ体上面部の幅方向の中心線上に各一個、第一、三、五、七、九列目には右中心線を挟んで対称的に各二個、計一四個が配置され、第二、四、六、八列目の脚片上部からクリップ体上面部にかけて細幅の長孔が形成されている。

(七) 被告意匠(五)の具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の三倍強、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの約二分の一であり、小孔はいずれも幅方向に細長い楕円形で、長さ方向に九列にクリップ体上面部の幅方向の中心線を挟んで対称的に各二個、計一八個が配置されているが、第二、四、六、八列目の小孔はその余の列の小孔より大きく形成されており、第二、四、六、八列目の脚片上部からクリップ体上面部にかけて細幅の長孔が形成されている。

(八) 被告意匠(六)の具体的構成態様は、脚片の幅が切込溝の幅の三倍強、脚片の長さ(溝の深さ)が正面から見たクリップ体の高さの約三分の二であり、小孔はいずれも幅方向に細長い楕円形で長さ方向に九列に配置されているが、第一、三、五、七、九列目には、クリップ体上面部の幅方向の中心線を挟んで対称的に各二個、第二、四、六、八列目には、その余の列の小孔より大きい孔が右中心線上に各一個と右線を挟んで対称的に各二個、計二二個が配置されており、第二、四、六、八列目の脚片上部には細幅の長孔が形成されている。

3  ところで、本件意匠に係る物品であるヘア・カーラー用クリップの用途、機能及び使用形態、並びに、本件意匠の遺匠登録出願前において、横長で円弧状のクリップ体の側面に多数の切込溝と脚片を形成し、クリップ体上面部に多数個の小孔を配置して成るようなヘア・カーラー用クリップが存在したことを認むべき証拠はなく、したがって、本件意匠の前記基本的構成態様はこの種物品において極めて特徴的、斬新的なものと認められることを併せ考えると、本件意匠に接した取引者、需要者が注意を引かれる部分、すなわち意匠の要部は、前記基本的構成態様にあるものと認めるのが相当である。

4  そこでまず、本件意匠と被告意匠(一)ないし(三)を対比すると、前記1、2項に認定のとおり、両者はそれぞれ基本的構成態様を共通とするものであるのに対し、具体的構成態様、すなわち、切込溝の幅に対する脚片の幅の比率、正面から見たクリップ体の高さに対する脚片の長さ(溝の深さ)の比率、脚片の先端部の弧状突起の有無、小孔の形状、数及び配置状況、脚片における、あるいは脚片からクリップ体上面部にかけての細幅の長孔の有無の点で相違している(なお、具体的構成態様の相違については概ね当事者間に争いがない。)。

しかして、右のとおり本件意匠と被告意匠(一)ないし(三)は意匠の要部である基本的構成態様において共通していること、具体的構成態様の相違はいずれも意匠の要部に関しない部分のものである上、被告意匠(一)ないし(三)の前記具体的構成態様は本件意匠の具体的構成態様を僅かに改変した程度のものであって、基本的構成態様によって醸出される美感を凌駕し、看者に別異の美的印象をもたらすものとまでは認め難いことからすると、本件意匠と被告意匠(一)ないし(三)は全体的な美感を共通にし、類似するものと認めるのが相当である。

次に、本件意匠と被告意匠(四)ないし(六)を対比すると、前記1、2項に認定のとおり、両者はそれぞれ切込溝及び脚片の数の点を除いて基本的構成態様を共通とするものであるのに対し、具体的構成態様、すなわち、切込溝の幅に対する脚片の幅の比率、正面から見たクリップ体の高さに対する脚片の長さ(溝の深さ)の比率、小孔の形状、数及び配置状況、脚片における、あるいは脚片からクリップ体上面部にかけての細幅の長孔の有無の点で相違している(なお、具体的構成態様の相違については概ね当事者間に争いがない。)。

しかして、右のとおり本件意匠と被告意匠(四)ないし(六)は切込溝及び脚片の数の点を除いて意匠の要部である基本的構成態様において共通していること、切込溝及び脚片は意匠の要部に関するものではあるが、本件意匠と被告意匠(四)ないし(六)におけるそれらの数の相違は、一側面においてそれぞれ僅か一箇所、一本であって、多数の切込溝及び脚片が形成されているという点では看者に対し別異の美的印象を与えるものとは認め難いこと、具体的構成態様の相違はいずれも意匠の要部に関しない部分である上、被告意匠(四)ないし(六)の前記具体的構成態様は本件意匠の具体的構成態様を僅かに改変した程度のものであって、基本的構成態様によって醸出される美感を凌駕し、看者に別異の美的印象をもたらすものとまでは認め難いことからすると、本件意匠と被告意匠(四)ないし(六)は全体的な美感を共通にし、類似するものと認めるのが相当である。

四  右のとおりであるから、被控訴人が別紙目録1(一)ないし(三)、同目録3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造販売する行為は本件意匠権を侵害するものというべく、被控訴人に対して、右ヘア・カーラー用クリップの製造販売の差止め及び廃棄を求める控訴人の請求は理由がある。

なお、被控訴人は、本件意匠と同一の意匠を有するセレステ・カンパニー・インコーポレイテッドの商品が昭和五六年(一九八一年)一二月二二日までには米国内において販売されており、本件意匠は米国における意匠登録出願前に米国内において公然と知られた意匠となっていたから、本件意匠登録には無効原因があるとして、被控訴人による前記ヘア・カーラー用クリップの製造販売行為が本件意匠権の侵害を構成するのは、被告意匠(一)ないし(六)が本件意匠の範囲に属する場合に限られる旨主張する。

成立に争いのない乙第一号証によれば、セレステ・カンパニー・インコーポレイテッドの商品カタログには本件意匠と極めて類似の意匠から成るヘア・カーラー用クリップの写真が掲載されていることが認められるが、同カタログの左下部分には(7.83)と記載されていること、並びに、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正が認められる甲第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五号証、第六号証の一・二によれば、右カタログは一九八三年(昭和五八年)七月に印刷、発行されたものであることが認められるから、右カタログを根拠として、右主張事実を肯認することはできず、他に右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって、右主張事実を前提とする被控訴人の主張は理由がない。

五  被控訴人には本件意匠権に対する前記侵害行為について過失があったものと推定されるところ、この推定を覆すに足りる主張、立証はないから、被控訴人は、控訴人に対し、右侵害行為により控訴人が被った損害を賠償すべき義務がある。

そこで、控訴人の被った損害額について検討する。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一一、第一二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一四号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の真正が認められる乙第九、第一〇、第一三、第一五、第一六号証、並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人においては、昭和六〇年四月一三日から同六一年四月一二日までの間に、別紙目録1(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップ各複数本と、同目録2(一)ないし(三)記載の毛髪用カーラー(被告装置(一)ないし(三))各複数本及び一個の蒸気発生器等から成る、控訴人主張に係る商品名「ビナールモイスチャーカーラー」の他、商品名を「ビナールモイスチャーローラー」、商品名を「ビナール16」とするヘア・カーラー装置を販売したこと、右期間における「ビナールモイスチャーカーラー」、「ビナールモイスチャーローラー」及び「ビナール16」の売上額は合計七五〇七万五〇〇〇円と推計されること、右期間における右三製品の純利益は合計一八四万四二七三円(利益率二・四%)と推計されること、右三製品に用いられるヘア・カーラー用クリップの原価が右各製品の原価に占める割合は一・八%であること、が認められる。

ところで、意匠権を侵害する物品が販売製品の一部に用いられている場合において、侵害者が当該侵害行為により受けた利益の額は、製品全体に対する侵害物品の原価割合等を基準に、製品全体の利益に対する侵害物品の寄与度を考慮して決定するのが相当である。

本件において、前記認定のとおり、前記三製品の利益額は合計一八四万四二七三円と推計されるから、「ビナールモイスチャーカーラー」を販売したことによる利益は、右金額の三分の一、すなわち六一万四七六〇円と推計するのが相当である。そして、「ビナールモイスチャーカーラー」は、別紙目録1(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップ各複数本と、同目録2(一)ないし(三)記載の毛髪用カーラー各複数本及び一個の蒸気発生器等を単に組み合わせて一セットとしたヘア・カーラー装置であるから、「ビナールモイスチャーカーラー」の利益に対する右ヘア・カーラー用クリップの寄与度は、「ビナールモイスチャーカーラー」に対する右ヘア・カーラー用クリップの原価割合程度のものと認めるのが相当である。そうすると、被控訴人が、本件意匠権の侵害物品である右ヘア・カーラー用クリップを製造し、「ビナールモイスチャーカーラー」に組み込んで販売したことによる利益は、右六一万四七八〇円に前記原価割合一・八%を乗じた一万一〇六五円と認めるのが相当であり、右金額をもって控訴人の被った損害と認める。

他に控訴人が右金額以上の損害を被ったことを算出し得る証拠はない。

第二特許権に基づく請求について

当裁判所も、控訴人の本件特許権に基づく請求は理由がないものと認めるが、その理由は原判決の理由説示(五七丁裏四行ないし六五丁裏七行)〔知裁集二六巻二号五七七頁四行ないし五八一頁一二行〕と同一であるから、これを引用する。

第三結論

よって、控訴人の本訴請求は、別紙目録1(一)ないし(三)、同目録3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップの製造販売の差止め、右クリップの廃棄、損害賠償金一万一〇六五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和六三年三月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきであるところ、原判決は右と異なり本訴請求を全部棄却したので、主文一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項、上告のための附加期間の定めにつき同法一五八条二項を各適用をして、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤博 濱崎浩一 押切瞳)

別紙 目録1

左の(一)ないし(三)に示す形状のヘア・カーラー用クリップ

(背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。)

(一)

(二)

(三)

別紙 目録2

左の(一)ないし(三)に示すように、中空となるとともに、適当数の通孔1、1′を設けた細長円筒体の芯体3の左右側部に一方のみが前記芯体の中空部に連通する開口部2を有するリム4、4′を設け、この芯体の外周囲に吸湿性の多孔質体5を被包したローラー体と、他方、前記芯体と同じ長さになり上面部が深いアーチ状になるとともに、その左右側部7、7′が前記芯体の半径とほぼ同幅の凹溝を設けたカバー体6を設け、前記芯体3に前記カバー体を嵌合固着するようにしてなる毛髪用カーラー。

(一)

(二)

(三)

別紙 目録3

左の(一)ないし(三)に示す形状のヘア・カーラー用クリップ

(背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。)

(一)

(二)

(三)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告は、別紙目録1(一)ないし(三)及び同3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップ及び同2(一)ないし(三)記載の毛髪用カーラーを製造販売してはならない。

2 被告は、右1のヘア・カーラー用クリップ及び毛髪用カーラー及びその半製品を廃棄せよ。

3 被告は、原告に対し、二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

5 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一 請求の原因

(意匠権に基づく請求)

1 原告は、昭和五七年七月九日、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)に係る意匠登録出願をし、同六〇年四月一二日、その意匠権設定の登録を経由した。

意匠に係る物品 ヘアカーラー用クリップ

出願      昭和五七年七月九日

優先権主張   同年二月一二日(米国)

登録      同六〇年四月一二日

登録番号    第六五五六一二号

登録意匠の内容 本判決添付の意匠公報(以下「本件意匠公報」という。)記載のとおり

2 被告は、昭和五八年頃から、業として、別紙目録1(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造し、右クリップ各複数本を、これと組み合わせて用いる同目録2(一)ないし(三)記載の毛髪用カーラー(以下順次「被告装置(一)」、「被告装置(二)」、「被告装置(三)」という。)各複数本及び一個の蒸気発生器等とで一セットとして、商品名を「ビナールモイスチャーカーラー」とするヘア・カーラー装置を販売している。

また、被告は、遅くとも平成二年四月から、業として、別紙目録3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造し、右クリップ各複数本を、これと組み合わせて用いる毛髪用カーラー各複数本及び一個の蒸気発生器等とで一セットとして、商品名を「ビナール一六」、「ビナール良い旅」とするヘア・カーラー装置を販売している。

3 本件意匠と別紙目録1及び3の各(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠を対比すると、次のとおりである。

(一) 本件意匠と別紙目録1(一)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠(以下「被告意匠(一)」という。)との対比

(1)  被告意匠(一)は、次の点において、本件意匠と共通している。

(ア) 側面図において、全体の約三分の二の円の形状になるクリップ体であること。

(イ) 正面図及び背面図において、このクリップ体の下側約二分の一以上の部分に、それぞれ等間隔に九本のほぼ一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝が設けられ、それらの間及び両端に、一〇本の一定長さ及びほぼ一定幅のU字形脚片を形成し、該U字形脚片の幅は、溝の幅よりも二倍以上広く、また、各脚片の溝側の側面外角は、面取りされてテーパ面となっていること。

(ウ) 平面図において、クリップ体の脚片以外の部分(以下「背部」という。)の長さ方向に、一定間隔で、二個(クリップ体の長さ方向に中心線(以下「中心線」という。)を想定して、同中心線に対して左右対称(以下「左右対称」という。))、一個(中心線上)、二個(左右対称)の順に千鳥足状に合計一六個の小孔が配置されていること。

(2)  被告意匠(一)は、次の点において、本件意匠と相違している。

(ア) 被告意匠(一)は、脚片の幅が溝の幅の約二倍であるのに対し、本件意匠は、脚片の幅が溝の幅の約二・五倍であり、また、被告意匠(一)は、脚片の長さ(溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二弱であるのに対し、本件意匠は、脚片の長さ(溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の一・五(二分の一)強であり、更に、被告意匠(一)は、脚片の先端部が溝の方へ溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有するのに対し、本件意匠は、右のような突起を有しないこと。

(イ) 被告意匠(一)は、背部の一六個の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔が円形であること。

(ウ) 被告意匠(一)は、クリップ体の長さ方向の端部(以下「クリップ体端部」という。)から第二、四、七及び九番目の脚片に、背部の小孔と同じ幅の長孔が形成されているのに対し、本件意匠は、脚片に右のような長孔が存在しないこと。

(3)  右(1) の共通部分は、極めて特異な意匠を提供している。そもそも、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠における物品の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的構成は、この種物品の主要部分を占めるとともに、本件意匠の基本的な構成要素である。したがって、右共通部分が存在する限り、被告意匠(一)は、本件意匠に類似する。

他方、右(2) の差異部分は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さい部分を占めるにすぎず、また、右の共通部分による基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生じていないので、右共通部分から得られる美観に対してほとんど影響しない。

(二) 本件意匠と別紙目録1(二)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠(以下「被告意匠(二)」という。)との対比

(1)  被告意匠(二)は、次の点において、本件意匠と共通している。

(ア) 側面図において、全体の約三分の二の円の形状になるクリップ体であること。

(イ) 正面図及び背面図において、このクリップ体の下側約二分の一を超える部分に、それぞれ等間隔に九本のほぼ一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝が設けられ、それらの間及び両端に、一〇本の一定長さ及び一定幅のU字形脚片を形成し、該U字形脚片の幅は、溝の幅よりも二倍以上広く、また、各脚片の溝側の側面外角は、面取りされてテーパ面となっていること。

(ウ) 平面図において、背部の長さ方向に、一定間隔で、一〇列の小孔が配置されており、そのうちクリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目は、左右対称の比較的小さい小孔からなっていること。

(2)  被告意匠(二)は、次の点において、本件意匠と相違している。

(ア) 被告意匠(二)は、脚片の幅が溝の幅の約二倍であるのに対し、本件意匠は、脚片の幅が溝の幅の約二・五倍であり、また、被告意匠(二)は、脚片の長さ(溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二強であるのに対し、本件意匠は、脚片の長さ(溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の一・五(二分の一)強であり、更に、被告意匠(二)は、脚片の先端部が溝の方へ溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有するのに対し、本件意匠は、右のような突起を有しないこと。

(イ) 被告意匠(二)は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第二、四、七及び九列目の小孔がその余の列の小孔より大きく、かつ、左右対称に対となって配置されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第二、四、七、及び九列目の小孔がその余の列の小孔と同一の大きさで中心線上に一個配置されており、また、被告意匠(二)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔が円形であること。

(ウ) 被告意匠(二)は、クリップ体端部から第二、四、七及び九番目の脚片に、背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されているのに対し、本件意匠は、脚片に右のような長孔が存在しないこと。

(エ) 被告意匠(二)は、クリップ体の幅及び高さが大きく、本件意匠よりややずんぐりした形になっていること。

(3)  右(1) の共通部分は、極めて特異な意匠を提供している。そもそも、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠における物品の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的構成は、この種物品の主要部分を占めるとともに、本件意匠の基本的な構成要素である。したがって、右共通部分が存在する限り、被告意匠(二)は、本件意匠と類似する。

他方、右(2) の差異部分は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さい部分を占めるにすぎず、また、右の共通部分による基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生じていないので、右共通部分から得られる美観に対してほとんど影響しない。

(三) 本件意匠と別紙目録1(三)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠(以下「被告意匠(三)」という。)との対比

(1)  被告意匠(三)は、次の点において、本件意匠と共通している。

(ア) 側面図において、全体の約三分の二の円の形状になるクリップ体であること。

(イ) 正面図及び背面図において、このクリップ体の下側約二分の一を超える部分に、それぞれ等間隔に九本のほぼ一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝が設けられ、それらの間及び両端に、一〇本の一定長さ及びほぼ一定幅のU字形脚片を形成し、該U字形脚片の幅は、溝の幅よりも二倍以上広く、また各脚片の溝側の側面外角は、面取りされてテーパ面となっていること。

(ウ) 平面図において、背部の長さ方向に、一定間隔で、二個(左右対称)、一個(中心線上)、二個(左右対称)の順に千鳥足状に合計一六個の小孔が配置されていること。

(2)  被告意匠(三)は、次の点において、本件意匠と相違している。

(ア) 被告意匠(三)は、脚片の幅が溝の幅の二倍であるのに対し、本件意匠は、脚片の幅が溝の幅の約二・五倍であり、また、被告意匠(三)は、脚片の長さ(溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二弱であるのに対し、本件意匠は、脚片の長さ(溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の一・五(二分の一)強であり、更に、被告意匠(三)は、脚片の先端部が溝の方へ溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有するのに対し、本件意匠は、右のような突起を有しないこと。

(イ) 被告意匠(三)は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第二、四、七及び九列目の小孔がその余の列の小孔より大きく、かつ、中心線上の一個の外に左右対称に対になって配置されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第二、四、七及び九列目の小孔がその余の列の小孔と同一の大きさで中心線上に一個配置されており、また、被告意匠(三)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔が円形であること。

(ウ) 被告意匠(三)は、クリップ体端部から第二、四、七及び九番目の脚片に、背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されているのに対し、本件意匠は、脚片に右のような長孔が存在しないこと。

(エ) 被告意匠(三)は、クリップ体の幅及び高さが大きく、本件意匠よりややずんぐり形になっていること。

(3)  右(1) の共通部分は、極めて特異な意匠を提供している。そもそも、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠における物品の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的構成は、この種物品の主要部分を占めるとともに、本件意匠の基本的な構成要素である。したがって、右共通部分が存在する限り、被告意匠(三)は、本件意匠と類似する。

他方、右(2) の差異部分は、クリップ全体の大きさに対してごく小さい部分を占めるにすぎず、また、右の共通部分による基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生じていないので、右共通部分から得られる美観に対してほとんど影響しない。

(四) 本件意匠と別紙目録3(一)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠(以下「被告意匠(四)」という。)との対比

(1)  被告意匠(四)は、次の点において、本件意匠と共通している。

(ア) 側面図において、全体の約三分の二の円の形状になるクリップ体であること。

(イ) 正面図及び背面図において、このクリップ体の下側約二分の一強の部分に、それぞれ等間隔に多数本の一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝が設けられ、それらの間及び両端に、多数本の一定長さ及び一定幅のU字形脚片を形成し、該U字形脚片の幅は、溝の幅よりも二倍強広く、また、各脚片の溝側の側面外角は、面取りされてテーパ面となっていること。

(ウ) 平面図において、背部の長さ方向に、一定間隔で、二個(左右対称)、一個(中心線上)、二個(左右対称)の順に千鳥足状に多数個の小孔が設置されていること。

(2)  被告意匠(四)は、次の点において、本件意匠と相違している。

(ア) 被告意匠(四)は、背部の小孔の数及び列が一四個、九列という配置であるのに対し、本件意匠は、背部の小孔の数及び列が一六個、一〇列という配置であること。

(イ) 被告意匠(四)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されるのに対し、本件意匠は、背部の小孔が円形であること。

(ウ) 被告意匠(四)は、脚片を九対有するのに対し、本件意匠は、脚片を一〇対有し、また、被告意匠(四)は、クリップ体端部から第二、四、六及び八番目の脚片に、背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されているのに対し、本件意匠は、脚片に右のような長孔が存在しないこと。

(3)  右(1) の共通部分は、極めて特異な意匠を提供している。そもそも、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠における物品の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的構成は、この種物品の主要部分を占めるとともに、本件意匠の基本的な構成要素である。したがって、右共通部分が存在する限り、被告意匠(四)は、本件意匠に類似する。

他方、右(2) の差異部分は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さい部分を占めるにすぎず、また、右の共通部分による基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生じていないので、右共通部分から得られる美観に対してほとんど影響しない。

(五) 本件意匠と別紙目録3(二)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠(以下「被告意匠(五)」という。)との対比

(1)  被告意匠(五)は、次の点において、本件意匠と共通している。

(ア) 側面図において、全体の約三分の二の円の形状になるクリップ体であること。

(イ) 正面図及び背面図において、このクリップ体の下側約二分の一強の部分に、それぞれ等間隔に多数本の一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝が設けられ、それらの間及び両端に、多数本の一定長さ及び一定幅のU字形脚片を形成し、該U字形脚片の幅は、溝の幅よりも二倍強広く、また、各脚片の溝側の側面外角は、面取りされてテーパ面となっていること。

(ウ) 平面図において、背部の長さ方向に、一定間隔で、多数組の小孔が規則的に配置されており、そのうち一部又は全部が一定間隔で、左右対称に対となって配置されていること。

(2)  被告意匠(五)は、次の点において、本件意匠と相違している。

(ア) 被告意匠(五)は、背部の一八個の小孔がすべて左右対称に九対配置されているのに対し、本件意匠は、背部の一六個の小孔が一〇対配置され、そのうちクリップ体端部から第二、四、七及び九列目の小孔は、中心線上に配置されていること。

(イ) 被告意匠(五)は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第二、四、六及び八列目の小孔がその余の列の小孔より大きいのに対し、本件意匠は、背部の小孔がすべて同一の大きさの小孔であり、また、被告意匠(五)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔が円形であること。

(ウ) 被告意匠(五)は、脚片を九対有するのに対し、本件意匠は、脚片を一〇対有し、また、被告意匠(五)は、クリップ体端部から第二、四、六及び八番目の脚片に、背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されているのに対し、本件意匠は、脚片に右のような長孔が存在しないこと。

(3)  右(1) の共通部分は、極めて特異な意匠を提供している。そもそも、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠における物品の全体形状や、小孔、切込溝、脚片の基本的構成は、この種物品の主要部分を占めるとともに、本件意匠の基本的な構成要素である。したがって、右共通部分が存在する限り、被告意匠(五)は、本件意匠と類似する。

他方、右(2) の差異部分は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さい部分を占めるにすぎず、また、右の共通部分による基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生じていないので、右共通部分から得られる美観に対してほとんど影響しない。

(六) 本件意匠と別紙目録3(三)記載のヘア・カーラー用クリップの意匠(以下「被告意匠(六)」という。)との対比

(1)  被告意匠(六)は、次の点において、本件意匠と共通している。

(ア) 側面図において、全体の約三分の二の円の形状になるクリップ体であること。

(イ) 正面図及び背面図において、このクリップ体の下側約二分の一強の部分に、それぞれ等間隔に多数本の一定幅及び一定深さの逆U字形切込溝が設けられ、それらの間及び両端に、多数本の一定長さ及び一定幅のU字形脚片を形成し、該U字形脚片の幅は、溝の幅よりも二倍強広く、また各脚片の溝側の側面外角は、面取りされてテーパ面となっていること。

(ウ) 平面図において、背部の長さ方向に、一定間隔で、左右対称に千鳥足状に多数個の小孔が設置されていること。

(2)  被告意匠(六)は、次の点において、本件意匠と相違している。

(ア) 被告意匠(六)は、脚片の長さが全高の約三分の二程度であるのに対し、本件意匠は、約三分の一・五強(二分の一強)であって、約一五%程度の差があること。

(イ) 被告意匠(六)は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、七及び九列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が左右対称に三個配置されているのに対し、本件意匠は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されていること。

(ウ) 被告意匠(六)は、背部の小孔のうち、クリップ体端部から第二、四、六及び八列目の小孔がその余の小孔より大きいのに対し、本件意匠は、背部の小孔がすべて同一の大きさの小孔であり、また、被告意匠(六)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されるのに対し、本件意匠は、背部の小孔が円形であること。

(エ) 被告意匠(六)は、脚片を九対有するのに対し、本件意匠は、脚片を一〇対有し、また、被告意匠(六)は、クリップ体端部から第二、四、六及び八番目の脚片に、背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されているのに対し、本件意匠は、右のような長孔を有しないこと。

(オ) 被告意匠(六)は、クリップ体の幅及び高さが大きく、本件意匠よりずんぐりした形になっていること。

(3)  右(1) の共通部分は、極めて特異な意匠を提供している。そもそも、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠における物品の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的構成は、この種物品の主要部分を占めるとともに、本件意匠の基本的な構成要素である。したがって、右共通部分が存在する限り、被告意匠(六)は、本件意匠と類似する。

他方、右(2) の差異部分は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さい部分を占めるにすぎず、また右の共通部分による基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生じていないので、右共通部分から得られる美観に対してほとんど影響しない。

4 被告は、別紙目録1(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造販売することが本件意匠権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、前2前段のとおり、右クリップを製造販売し、原告は、これにより、損害を被ったものであるところ、被告は、昭和六〇年四月一三日から同六一年四月一二日までの間に、商品名を「ビナールモイスチャーカーラー」とするヘア・カーラー装置を販売したことにより、二〇〇〇万円を下らない利益を受けた。そして、右利益のうち一〇〇〇万円は、被告が本件意匠権侵害の行為により受けた利益であるから、意匠法三九条一項の規定により、原告が被った損害の額と推定される。

5 よって、原告は、被告に対し、本件意匠権に基づき、別紙目録1及び3の各(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップを製造販売することの差止め、右クリップ及びその半製品の廃棄並びに損害賠償として一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(特許権に基づく請求)

1 原告は、昭和四八年七月一二日、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)に係る特許登録出願をし、同五三年一〇月一三日、その特許権設定の登録を経由した。

発明の名称 ヘア・カーラー

出願    昭和四八年七月一二日

公告    同五三年三月一三日

登録    同年一〇月一三日

特許番号  第九二七八一四号

2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件特許公報」という。)の該当項記載のとおりである。

3 本件発明の構成要件は、次のとおりである。

A 蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラーであること

B 長さ方向に沿って一つ又はそれ以上の穴、及び一端に蒸気を導入するための開口を有する中空芯部材を設けること

C 芯部材の各端にその横断寸法より大きい横断寸法を有するハブを設けること

D 芯部材の周りに多孔質パッドを装着すること

E 三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さない蒸気遮蔽体を設けること

F 多孔質パッドを装着した芯部材を、蒸気遮蔽体に対して十分な遊隙をもって並置させること

G 遮蔽体をハブの一方に着脱自在に結合する手段を設けること

H 蒸気を端部開口を通して芯部材内へ導き、芯部材の穴及び多孔質パッドを通して半径方向に排出させるようにすること

I 以上よりなるヘア・カーラー

4 被告は、昭和五八年頃から、業として、被告装置(一)ないし(三)を製造し、右各複数本を、これと組み合わせて用いる別紙目録1(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップ各複数本及び一個の蒸気発生器等とで一セットとして、商品名を「ビナールモイスチャーカーラー」とするヘア・カーラー装置を販売している。

5 被告装置(一)ないし(三)は、大きさを異にするだけで、構造を共通にするものであるところ、被告装置(一)ないし(三)は、次のとおり、本件発明の構成要件を充足するから、本件発明の技術的範囲に属する。

(一) 本件発明の構成要件Aは、「蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラーであること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、蒸気源とともに使用するヘア・カーラーであるから、本件発明の構成要件Aを充足する。

(二) 本件発明の構成要件Bは、「長さ方向に沿って一つ又はそれ以上の穴、及び一端に蒸気を導入するための開口を有する中空芯部材を設けること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、長さ方向に沿って通孔1、1′と一端に開口部2を有する芯体3が設けられているから、本件発明の構成要件Bを充足する。

(三) 本件発明の構成要件Cは、「芯部材の各端にその横断寸法より大きい横断寸法を有するハブを設けること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、芯体3の横断寸法より大きいリム4、4′が設けられているから、本件発明の構成要件Cを充足する。

(四) 本件発明の構成要件Dは、「芯部材の周りに多孔質パッドを装着すること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、芯体3の周りに多孔質体5が装着されているから、本件発明の構成要件Dを充足する。

(五) 本件発明の構成要件Eは、「三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さない蒸気遮蔽体を設けること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さないカバー体6が設けられているから、本件発明の構成要件Eを充足する。

(六) 本件発明の構成要件Fは、「多孔質パッドを装着した芯部材を、蒸気遮蔽体に対して十分な遊隙をもって並置させること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、多孔質体5を装着した芯体3をカバー体6の側面に設けた左右側部7、7′によって十分な遊隙をもって並置させているから、本件発明の構成要件Fを充足する。

(七) 本件発明の構成要件Gは、「遮蔽体をハブの一方に着脱自在に結合する手段を設けること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、カバー体6を、リム4、4′に対して芯体3に着脱自在に結合する手段として係止クリップ(別紙目録2(一)ないし(三)には記載していない。)を使用しているから、本件発明の構成要件Gを充足する。

なお、被告装置(一)及び(二)の係止クリップは、リム4、4′を支点としてカバー体6を押圧的に支持している点で、本件発明の構成要件Gと差異があるが、結局は、本件発明と同様に、芯体3とカバー体6との所定間隔を置いての結合関係を維持するためのものであるとともに、係止クリップが作用しているときは、カバー体6は、該クリップ側の片方のリム4、4′によって運動を拘束され、ハブとの結合関係を維持しているのであるから、単なる設計変更にすぎない。

(八) 本件発明の構成要件Hは、「蒸気を端部開口を通して芯部材内へ導き、芯部材の穴及び多孔質パッドを通して半径方向に排出させるようにすること」であるところ、被告装置(一)ないし(三)は、蒸気を芯体3の開口部2を通して中空芯内に導入し、その複数の通孔1、1′と多孔質体5を通して半径方向に排出するようにしたものであるから、本件発明の構成要件Hを充足する。

(九) 被告装置(一)ないし(三)は、本件発明の構成要件Iを充足する。

(一〇) 仮に、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用するため」の意味が、ヘア・カーラーの使用状態において、常に蒸気源と機械的、物理的に連通していなければならないものと認められたとしても、被告装置(一)ないし(三)は、別個の蒸気源で加熱加水したヘア・カーラーをその熱エネルギーと水分を保有した状態で毛髪に巻き付け、ヒートセットするというものであるから、被告装置(一)ないし(三)と本件発明とは、ヘア・カーラーを毛髪に巻き付ける前に熱エネルギーと水分をヘア・カーラーに供給するか(被告装置(一)ないし(三))、ヘア・カーラーを毛髪に巻き付けた状態で熱エネルギーと水分をヘア・カーラーに供給するか(本件発明)の手順の違いにすぎず、ヘア・カーラー及びその多孔質パッドに水分と熱エネルギーを共存の状態で供給蓄積し、これを同時的に拡散し、巻回状態の毛髪に吸取させて短時間に所望の形態の毛髪のヒートセットを行うことにおいて、何ら変わるところがない。したがって、別個の蒸気源で予め加熱加水するという被告装置(一)ないし(三)の手段は、本件発明の目的、作用及び発明の構成全体からみて、本件発明の「蒸気源とともに使用する」という要件と均等の手段と認められるべきものである。

6 被告は、被告装置(一)ないし(三)を製造販売することが本件特許権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、前4のとおり、被告装置(一)ないし(三)を製造販売し、原告は、これにより、損害を被ったものであるところ、被告は、昭和六〇年四月一三日から同六一年四月一二日までの間に、商品名を「ビナールモイスチャーカーラー」とするヘア・カーラー装置を販売したことにより、二〇〇〇万円を下らない利益を受けた。そして、右利益のうち一〇〇〇万円は、被告が本件特許権侵害の行為により受けた利益であるから、特許法一〇二条一項の規定により、原告が被った損害の額と推定される。

7 よって、原告は、被告に対し、被告装置(一)ないし(三)を製造販売することの差止め、被告装置(一)ないし(三)及びその半製品の廃棄並びに損害賠償として一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二 請求の原因に対する認否

(意匠権に基づく請求)

1 請求の原因1のうち、原告が、本件意匠権の設定の登録を経由したことは認める。

2 同2は認める。

3 同3(一)ないし(三)のうち、各(2) は認めるが、その余は否認する。同3(四)ないし(六)は否認する。

4 同4は否認する。

(特許権に基づく請求)

1 請求の原因1のうち、原告が、本件特許権の設定の登録を経由したことは認める。

2 同2は認める。

3 同3のうち、AないしD、G及びHは認めるが、E及びFは否認する。本件発明の構成要件Eは、「使用者の頭皮を保護するために、三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さない蒸気遮蔽体を設けること」と、同Fは、「毛髪を前記パッドに巻きつけて、パッドと前記遮蔽体との間に位置させることができるように、十分な遊隙をもって前記芯部材を蒸気遮蔽体に対し並置させること」とそれぞれ解するのが相当である。

4 同4は認める。

5 同5のうち、(一)、(三)、(五)ないし(七)、(一〇)は否認する。

6 同6は否認する。

三 被告の主張

1 意匠権に基づく請求について

(一) 本件意匠と同一の意匠を有するセレステ・カンパニー・インコーポレイテッドの商品が、昭和五六年(一九八一年)一二月二二日までには、米国内において販売されていたのであって、本件意匠は、米国における意匠登録出願前に、米国内において公然知られた意匠となっていた。したがって、本件意匠登録については、無効原因(意匠法四八条一項一号、三条一項一号)があるから、このような場合には、意匠権者たる原告は、業として本件意匠の実施をする権利を専有するにとどまり、本件意匠に類似する意匠の実施をする権利を専有するものではないと解するのが相当であり、そうであれば、被告による別紙目録1及び3の各(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップの製造販売行為が本件意匠権の侵害を構成するのは、被告意匠(一)ないし(六)が本件意匠の範囲に属する場合に限られる。

(二) そこで、右のような見地から、本件意匠と被告意匠(一)ないし(六)とをそれぞれ対比すれば、次のとおりである。

(1)  本件意匠と被告意匠(一)との対比

本件意匠と被告意匠(一)とが、切込溝の幅に対する脚片の幅の割合、クリップ体全体に対する脚片の長さ(溝の深さ)の割合、脚片の形状、背部の小孔の形状及び脚片の細長円形孔の有無の点において、その構成を異にすることは、原告が自認するところであり(請求の原因(意匠権に基づく請求)3(一)(2) (ア)ないし(ウ))、このように構成を異にすることによる外観の差異は、看者の美観に顕著な差異をもたらすものであるから、被告意匠(一)は、本件意匠の範囲に属しない。この点について、原告は、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張するが、クリップ体は、毛髪を巻きつけるカーラーの補助具であって、それ自体決して大規模なものではなく、指先で軽くつかんで仕事をする小規模な物品であるから、このような物品の全体の形態から観察すれば、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるものではなく、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめるものである。したがって、原告の右主張は、理由がない。

(2)  本件意匠と被告意匠(二)との対比

本件意匠と被告意匠(二)とが、切込溝の幅に対する脚片の幅の割合、クリップ体全体に体する脚片の長さ(溝の深さ)の割合、脚片の形状、背部の小孔の数、配置、形状及び大きさ、脚片の細長円形孔の有無並びに全体の形態の点において、その構成を異にすることは、原告が自認するところであり(請求の原因(意匠権に基づく請求)3(二)(2) (ア)ないし(エ))、このように構成を異にすることによる外観の差異は、看者の美観に顕著な差異をもたらすものであるから、被告意匠(二)は、本件意匠の範囲に属しない。この点について、原告は、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張するが、クリップ体は、毛髪を巻きつけるカーラーの補助具であって、それ自体決して大規模なものではなく、指先で軽くつかんで仕事をする小規模な物品であるから、このような物品の全体の形態から観察すれば、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるものではなく、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめるものである。したがって、原告の右主張は、理由がない。

(3)  本件意匠と被告意匠(三)との対比

本件意匠と被告意匠(三)とが、切込溝の幅に対する脚片の幅の割合、クリップ体全体に対する脚片の長さ(溝の深さ)の割合、脚片の形状、背部の小孔の数、配置、形状及び大きさ、脚片の細長円形孔の有無並びに全体の形態の点において、その構成を異にすることは、原告が自認するところであり(請求の原因(意匠権に基づく請求)3(三)(2) (ア)ないし(エ))、このように構成を異にすることによる外観の差異は、看者の美観に顕著な差異をもたらすものであるから、被告意匠(三)は、本件意匠の範囲に属しない。この点について、原告は、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張するが、クリップ体は、毛髪を巻きつけるカーラーの補助具であって、それ自体決して大規模なものではなく、指先で軽くつかんで仕事をする小規模な物品であるから、このような物品の全体の形態から観察すれば、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるものではなく、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめるものである。したがって、原告の右主張は、理由がない。

(4)  本件意匠と被告意匠(四)との対比

本件意匠と被告意匠(四)とが、背部の小孔の数、配置、形状及び大きさ、脚片の数、脚片の細長円形孔の有無並びに全体の形態の点において、その構成を異にすることは、原告が自認するところであり(請求の原因(意匠権に基づく請求)3(四)(2) (ア)ないし(ウ))、このように構成を異にすることによる外観の差異は、看者の美観に顕著な差異をもたらすものであるから、被告意匠(四)は、本件意匠の範囲に属しない。この点について、原告は、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張するが、クリップ体は、毛髪を巻きつけるカーラーの補助具であって、それ自体決して大規模なものではなく、指先で軽くつかんで仕事をする小規模な物品であるから、このような物品の全体の形態から観察すれば、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるものではなく、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめるものである。したがって、原告の右主張は、理由がない。

(5)  本件意匠と被告意匠(五)との対比

本件意匠と被告意匠(五)とが、背部の小孔の数、配置、形状及び大きさ、脚片の数、脚片の細長円形孔の有無並びに全体の形態の点において、その構成を異にすることは、原告が自認するところであり(請求の原因(意匠権に基づく請求)3(五)2(ア)ないし(ウ))、このように構成を異にすることによる外観の差異は、看者の美観に顕著な差異をもたらすものであるから、被告意匠(五)は、本件意匠の範囲に属しない。この点について、原告は、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張するが、クリップ体は、毛髪を巻きつけるカーラーの補助具であって、それ自体決して大規模なものではなく、指先で軽くつかんで仕事をする小規模な物品であるから、このような物品の全体の形態から観察すれば、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるものではなく、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめるものである。したがって、原告の右主張は、理由がない。

(6)  本件意匠と被告意匠(六)との対比

本件意匠と被告意匠(六)とが、クリップ体全体に対する脚片の長さ(溝の深さ)の割合、背部の小孔の数、配置、形状及び大きさ、脚片の数並びに脚片の細長円形孔の有無並びに全体の形態の点において、その構成を異にすることは、原告が自認するところであり(請求の原因(意匠権に基づく請求)3(六)(2) (ア)ないし(オ))、このように構成を異にすることによる外観の差異は、看者の美観に顕著な差異をもたらすものであるから、被告意匠(六)は、本件意匠の範囲に属しない。この点について、原告は、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な美観に対して全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張するが、クリップ体は、毛髪を巻きつけるカーラーの補助具であって、それ自体決して大規模なものではなく、指先で軽くつかんで仕事をする小規模な物品であるから、このような物品の全体の形態から観察すれば、右差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるものではなく、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめるものである。したがって、原告の右主張は、理由がない。

2 特許権に基づく請求について

(一) 被告装置(一)ないし(三)は、次のとおり、本件発明の構成要件Aを充足しない。

本件発明の構成要件Aは、「蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラーであること」であるところ、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用する」との用語は、その使用状態において、常に蒸気源と機械的、物理的に連通していなければならないことを意味するものである。けだし、本件発明の目的、効果について、本件明細書には、「本発明は、ヘア・カーラーに関し、特には、カーラーに巻かれた毛髪に熱い蒸気を当ててカール作用を行うように構成されたヘア・カーラーに関する。熱蒸気は、約三秒間カーラーの内部に給与され、その間に毛髪はカールされ乾燥する。そのあと、カーラーを取外すことができる。」(本件特許公報一頁1欄三三行ないし2欄一行)、「低圧の蒸気によって数秒間以内にカールできるように構成された本発明のヘア・カーラーは、従来のヘア・カーラーに比べて幾つかの利点を有する。本発明のヘア・カーラーは、三秒以内にカール作用を行うとともに、きめの細いカールを行う。」(同頁2欄一五行ないし一九行)、「約三秒間蒸気をかければ、カーラーを分解してよい。かくして、カール作業が完了する。」(同二頁4欄三一行、三二行)、「かくして、本発明のヘア・カーラーは、約三秒間という非常に短い時間で髪をカールし、かつ、その後髪をドライヤにかける必要がない。」(同欄三九行ないし四一行)との記載があり、本件発明の目的、効果が約三秒間という非常に短い時間で毛髪をカールすることにあるのは明白である。このような効果を達成するためには、必然的に毛髪にカーラーを巻き付け、このカーラーを蒸気導入口から直接熱い蒸気を噴出させるという構成を採らざるをえないのである。だからこそ、本件発明の特許請求の範囲には、「使用者の頭皮を保護するために三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さない蒸気遮蔽体を設け」との記載があるのである。実施例にも、「蒸気は、先端にノズル46を有し、弁50のような蒸気流を制御するための選択的に作動自在の装置を有する導管48によってヘア・カーラーへ送給される。」(同欄六行ないし九行)、「その後、ハブ16を通してノズル46を芯12の拡開端へ挿入する。弁50を操作して蒸気を芯12内へ噴射させる。蒸気は約三秒間噴射される。」(同欄一九行ないし二一行)との記載がある。したがって、本件発明のヘア・カーラーは、その使用状態において、常に蒸気源と機械的、物理的に連通していなければ、その効果を達成できないのである。

他方、被告装置(一)ないし(三)は、予め蒸気源から慈気をカーラー内部に蓄積させ、しかる後に、蒸気源からこれを外して、単体として毛髪に巻き付けるものであって、蒸気源と分離して使用するものであるから、本件発明の構成要件Aを充足しない。

(二) 原告は、仮定的に均等論を主張するが、本件発明は、約三秒間できめ細かなカールと乾燥を行うことを作用効果とするものであるところ、被告装置(一)ないし(三)は、そのような作用効果を有しないから、均等論の対象として論義すべき範疇に属しない。原告は、「約三秒間」を「極めて短い時間」という上位概念に置き換えて、上位概念の共通性をもって、作用効果が均等であると主張するようであるが、このような主張は、許されるものではない。また、被告装置(一)ないし(三)は、本件発明の直接噴射方式を採用せず、蒸気源と別個に使用するという方法を採用することにより、原告主張の作用効果である約三秒間でのきめ細かなカールと乾燥の達成までは求めない半面、安全面において本件発明をはるかに凌駕し、その使用方法を簡明なものとし、かつ、本件発明にはない内巻き及び外巻きのカール形成を可能にしているのであって、本件発明とは全く別個独立の技術的思想による製品である。

四 被告の主張2(一)に対する原告の反論

本件発明の「約三秒間」という時間自体は、本件明細書の発明の詳細な説明に、「蒸気を約三秒以上当てた場合は、ヘア・カーラーの内部に水分がたまる傾向があるが、少量の水分は、パッド20によって捕集され、そこに保持される。」(本件特許公報二頁4欄三五行ないし三八行)と記載されているとおり、本件発明のヘア・カーラーによる熱固定のために十分な時間としての意味で使用されているのであって、本件発明において重要な意味を持つものではない。

本件発明は、従来の単純な加熱カーラーの代わりに、巻き付けられた毛髪に水分と熱エネルギーを同時に供給することにより、極めて短い時間で強固なヒートセットを完了することができ、しかも、事後に毛髪を乾燥させる必要がないというヘア・カーラーを提供することを特徴とするもので、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用するための」との意味は、右の特徴を前提として解釈されるべきであって、ヘア・カーラーが、その使用状態において、常に蒸気源と機械的、物理的に連通していなければならないものではない。

第三証拠関係<省略>

理由

一 意匠権に基づく請求について

1 請求の原因1のうち、原告が本件意匠権の認定の登録を経由したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一によれば、その余の事実が認められる。

2 請求の原因2の事実は、当事者間に争いがない。

3 そこで、本件意匠と被告意匠(一)ないし(六)との類否について検討する。

(一) 前1及び2の事実によれば、本件意匠の構成は、本件意匠公報に表示されたとおりのものであり、また、被告意匠(一)ないし(六)の各構成は、別紙目録1(一)ないし(三)及び同目録3(一)ないし(三)に表示されたとおりのものであるところ、成立に争いのない甲第一号証の二、第三号証、第一〇号証(ただし、入手時期を除く。)、第一一号証(前同)、乙第八号証、別紙目録1(一)ないし(三)及び同目録3(一)ないし(三)記載のヘア・カーラー用クリップであることについて争いのない検甲第四号証ないし第九号証によれば、本件意匠及び被告意匠(一)ないし(六)に係る物品は、いずれもヘア・カーラー用クリップであって、毛髪を巻き付けるカーラーの補助具として用いられるものであるところ、それ自体かなり小さい物品であること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手にとり、至近距離から当該物品の全体形状及び細部にわたって観察し、かつ、その使い方などを検討して取引するのが通常であると認められる。

(二) そこで、右(一)認定の事実に基づき、本件意匠と被告意匠(一)ないし(六)との類否について検討することにする。

(1)  本件意匠と被告意匠(一)との類否

右(一)認定の想定される取引の実情のもとにおいて考察するに、本件意匠及び被告意匠(一)は、主として、本件意匠公報の正面図及び平面図並びに別紙目録1(一)の正面図及び平面図に示された外観に、特に看者の注意を引く部分が現れるものということができるところ、右外観について両意匠を対比すると、(ア)本件意匠は、背部の小孔が円形であるのに対し、被告意匠(一)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されている、(イ)本件意匠は、一〇本の脚片がU字形であって、これには孔が形成されていないのに対し、被告意匠(一)は、一〇本の脚片のうちクリップ体端部の一本を除く九本がU字形の先端部において切込溝の方へ切込溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有しており、また、クリップ体端部から第二、四、七及び九番目の脚片に背部の小孔と同じ幅の長孔が形成されている、(ウ)本件意匠は、脚片の幅が切込溝の幅の約二・五倍であるのに対し、被告意匠(一)は、脚片の幅が切込溝の幅の約二倍であり、また、本件意匠は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約二分の一強であるのに対し、被告意匠(一)は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二弱である、以上のような差異がある。そして、右(ア)ないし(ウ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものと認められるから、被告意匠(一)は、本件意匠に類似するものではないと認められる。この点について、原告は、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成が主要部分であり、このような基本的な構成を共通にする限り、被告意匠(一)は、本件意匠に類似するのであって、右のような差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な構成から生ずる美観に対し、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張する。しかしながら、仮に、本件意匠と同種の意匠が本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったものであるとしても、前(一)認定のとおり、両意匠に係るヘア・カーラー用クリップは、それ自体かなり小さいものであること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手にとり、至近距離からその全体形状及び細部を観察するのが通常であるから、全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成のみが看者の注意を引くものということはできない。そして、(ア)ないし(ウ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものであることは、右認定のとおりであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。

(2)  本件意匠と被告意匠(二)との類否

前(一)認定の想定される取引の実情のもとにおいて考察するに、本件意匠及び被告意匠(二)は、主として、本件意匠公報の正面図及び平面図並びに別紙目録1(二)の正面図及び平面図に示された外観に、特に看者の注意を引く部分が現れるものということができるところ、右外観について両意匠を対比すると、(ア)本件意匠は、一〇列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されているのに対し、被告意匠(二)は、一〇列の背部の小孔がすべて左右対称に対になって配置されている、(イ)本件意匠は、背部の小孔が円形であって、すべて同一の大きさであるのに対し、被告意匠(二)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されていて、クリップ体端部から第二、四、七及び九列目の小孔がその余の列の小孔より大きい、(ウ)本件意匠は、一〇本の脚片がU字形であって、これには孔が形成されていないのに対し、被告意匠(二)は、一〇本の脚片のうちクリップ体端部の一本を除く九本がU字形の先端部において切込溝の方へ切込溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有しており、また、クリップ体端部から第二、四、七及び九番目の脚片に背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されている、(エ)本件意匠は、脚片の幅が切込溝の幅の約二・五倍であるのに対し、被告意匠(二)は、脚片の幅が切込溝の幅の約二倍であり、また、本件意匠は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約二分の一強であるのに対し、被告意匠(二)は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二強である、以上のような差異がある。そして、右(ア)ないし(エ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものと認められるから、被告意匠(二)は、本件意匠に類似するものではないと認められる。この点について、原告は、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成が主要部分であり、このような基本的な構成を共通にする限り、被告意匠(二)は、本件意匠に類似するのであって、右のような差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な構成から生ずる美観に対し、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張する。しかしながら、仮に、本件意匠と同種の意匠が本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったものであるとしても、前(一)認定のとおり、両意匠に係るヘア・カーラー用クリップは、それ自体かなり小さいものであること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手にとり、至近距離からその全体形状及び細部を観察するのが通常であるから、全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成のみが看者の注意を引くものということはできない。そして、(ア)ないし(エ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものであることは、右認定のとおりであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。

(3)  本件意匠と被告意匠(三)との類否

前(一)認定の想定される取引の実情のもとにおいて考察するに、本件意匠及び被告意匠(三)は、主として、本件意匠公報の正面図及び平面図並びに別紙目録1(三)の正面図及び平面図に示された外観に、特に看者の注意を引く部分が現れるものということができるところ、右外観について両意匠を対比すると、(ア)本件意匠は、一〇列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されているのに対し、被告意匠(三)は、一〇列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個と左右対称に対になった二個と合計三個配置されている。(イ)本件意匠は、背部の小孔が円形であって、すべて同一の大きさであるのに対し、被告意匠(三)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されていて、クリップ体端部から第二、四、七及び九列目の小孔がその余の列の小孔より大きい、(ウ)本件意匠は、一〇本の脚片がU字形であって、これには孔が形成されていないのに対し、被告意匠(三)は、一〇本の脚片のうちクリップ体端部の一本を除く九本がU字形の先端部において切込溝の方へ切込溝の幅の約半分程度延び出した弧状突起を有しており、また、クリップ体端部から第二、四、七及び九番目の脚片に背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されている、(エ)本件意匠は、脚片の幅が切込溝の幅の約二・五倍であるのに対し、被告意匠(三)は、脚片の幅が切込溝の幅の約二倍であり、また、本件意匠は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約二分の一強であるのに対し、被告意匠(三)は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二弱である、以上のような差異がある。そして、右(ア)ないし(エ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものと認められるから、被告意匠(三)は、本件意匠に類似するものではないと認められる。この点について、原告は、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成が主要部分であり、このような基本的な構成を共通にする限り、被告意匠(三)は、本件意匠に類似するのであって、右のような差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な構成から生ずる美観に対し、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張する。しかしながら、仮に、本件意匠と同種の意匠が本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったものであるとしても、前(一)認定のとおり、両意匠に係るヘア・カーラー用クリップはそれ自体かなり小さいものであること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手に取り、至近距離からその全体形状及び細部を観察するのが通常であるから、全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成のみが看者の注意を引くものということはできない。そして、(ア)ないし(エ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものであることは、右認定のとおりであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。

(4)  本件意匠と被告意匠(四)との類否

前(一)認定の想定される取引の実情のもとにおいて考察するに、本件意匠及び被告意匠(四)は、主として、本件意匠公報の正面図及び平面図並びに別紙目録3(一)の正面図及び平面図に示された外観に、特に看者の注意を引く部分が現れるものということができるところ、右外観について両意匠を対比すると、(ア)本件意匠は、一〇列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されているのに対し、被告意匠(四)は、九列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、七及び九列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されている、(イ)本件意匠は、背部の小孔が円形であって、すべて同一の大きさであるのに対し、被告意匠(四)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されていて、クリップ体端部から第二、四、六及び八列目の小孔がその余の列の小孔より大きい、(ウ)本件意匠は、一〇本の脚片には孔が形成されていないのに対し、被告意匠(四)は、九本の脚片のうち、クリップ体端部から第二、四、六及び八番目の脚片に背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されている、以上のような差異がある。そして、右(ア)ないし(ウ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものと認められるから、被告意匠(四)は、本件意匠に類似するものではないと認められる。この点について、原告は、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成が主要部分であり、このような基本的な構成を共通にする限り、被告意匠(四)は、本件意匠に類似するのであって、右のような差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な構成から生ずる美観に対し、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張する。しかしながら、仮に、本件意匠と同種の意匠が本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったものであるとしても、前(一)認定のとおり、両意匠に係るヘア・カーラー用クリップはそれ自体かなり小さいものであること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手に取り、至近距離からその全体形状及び細部を観察するのが通常であるから、全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成のみが看者の注意を引くものということはできない。そして、(ア)ないし(ウ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものであることは、右認定のとおりであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。

(5)  本件意匠と被告意匠(五)との類否

前(一)認定の想定される取引の実情のもとにおいて考察するに、本件意匠及び被告意匠(五)は、主として、本件意匠公報の正面図及び平面図並びに別紙目録3(二)の正面図及び平面図に示された外観に、特に看者の注意を引く部分が現れるものということができるところ、右外観について両意匠を対比すると、(ア)本件意匠は、一〇列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されているのに対し、被告意匠(五)は、九列の背部の小孔がすべて左右対称に対になって配置されている、(イ)本件意匠は、背部の小孔が円形であって、すべて同一の大きさであるのに対し、被告意匠(五)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されていて、クリップ体端部から第二、四、六及び八列目の小孔がその余の列の小孔より大きい、(ウ)本件意匠は、一〇本の脚片には孔が形成されていないのに対し、被告意匠(五)は、九本の脚片のうちクリップ体端部から第二、四、六及び八番目の脚片に背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されている、以上のような差異がある。そして、右(ア)ないし(ウ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものと認められるから、被告意匠(五)は、本件意匠に類似するものではないと認められる。この点について、原告は、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成が主要部分であり、このような基本的な構成を共通にする限り、被告意匠(五)は、本件意匠に類似するのであって、右のような差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な構成から生ずる美観に対し、全体の美観を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張する。しかしながら、仮に、本件意匠と同種の意匠が本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったものであるとしても、前(一)認定のとおり、両意匠に係るヘア・カーラー用クリップはそれ自体かなり小さいものであること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手に取り、至近距離からその全体形状及び細部を観察するのが通常であるから、全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成のみが看者の注意を引くものということはできない。そして、(ア)ないし(ウ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものであることは、右認定のとおりであるから、原告の右主張は、採用の限りでない。

(6)  本件意匠と被告意匠(六)との類否

前(一)認定の想定される取引の実情のもとにおいて考察するに、本件意匠及び被告意匠(六)は、主として、本件意匠公報の正面図及び平面図並びに別紙目録3(三)の正面図及び平面図に示された外観に、特に看者の注意を引く部分が現れるものということができるところ、右外観について両意匠を対比すると、(ア)本件意匠は、一〇列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、六、八及び一〇列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個配置されているのに対し、被告意匠(六)は、九列の背部の小孔のうち、クリップ体端部から第一、三、五、七、及び九列目の小孔が左右対称に対になって配置され、その余の列の小孔が中心線上に一個と左右対称に対になった二個と合計三個配置されている、(イ)本件意匠は、背部の小孔が円形であって、すべて同一の大きさであるのに対し、被告意匠(六)は、背部の小孔がクリップ体の幅方向に細長く形成されていて、クリップ体端部から第二、四、六及び八列目の小孔がその余の列の小孔より大きい、(ウ)本件意匠は、一〇本の脚片には孔が形成されていないのに対し、被告意匠(六)は、九本の脚片のうち、クリップ体端部から第二、四、六及び八番目の脚片に背部の小孔のうち小さい方の小孔と同じ幅の長孔が形成されている、(エ)本件意匠は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約二分の一強であるのに対し、被告意匠(六)は、脚片の長さ(切込溝の深さ)がクリップ体の下側約三分の二程度である、以上のような差異がある。そして、右(ア)ないし(エ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美感を異にするものと認められるから、被告意匠(六)は、本件意匠に類似するものではないと認められる。この点について、原告は、本件意匠と同種の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったから、本件意匠の全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成が主要部分であり、このような基本的な構成を共通にする限り、被告意匠(六)は、本件意匠に類似するのであって、右のような差異のある外観は、クリップ体全体の大きさに対してごく小さな部分を占めるにすぎず、基本的な構成から生ずる美観に対し、全体の美感を左右する程度の特異な美観を生ぜしめない旨主張する。しかしながら、仮に、本件意匠と同種の意匠が本件意匠の意匠登録出願前に存在しなかったものであるとしても、前(一)認定のとおり、両意匠に係るヘア・カーラー用クリップは、それ自体かなり小さいものであること及びその使用目的に照らし、取引者又は需要者は、その取引に当たっては、現物を手にとり、至近距離からその全体形状及び細部を観察するのが通常であるから、全体形状や小孔、切込溝、脚片の基本的な構成のみが看者の中止を引くということはできない。そして、(ア)ないし(エ)の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であって、両意匠を全体的に観察した場合において、視覚を通じての美観を異にするものであることは、右認定のとおりであるから、原告の主張は、採用の限りでない。

4 以上によれば、原告の意匠権に基づく主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。

二 特許権に基づく請求について

1 請求の原因1のうち、原告が本件特許権の設定の登録を経由したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証の一によれば、その余の事実が認められる。

2 請求の原因2の事実は、当事者間に争いがない。

3 右当事者間に争いのない請求の原因2の事実に成立に争いのない甲第二号証の二(本件特許公報)によれば、本件発明の構成要件は、次のとおりであると認められる。

A 蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラーにおいて、

B 長さ方向に沿って一つ又はそれ以上の穴、及び一端に蒸気を導入するための開口を有する中空芯部材を設け、

C 芯部材の各端にその横断寸法より大きい横断寸法を有するハブを設け、

D 芯部材の周りに多孔質パッドを装着し、

E 使用者の頭皮を保護するために三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さない蒸気遮蔽体を設け、

F 毛髪を前記パッドに巻きつけてパッドと前記遮蔽体との間に位置させることができるように十分な遊隙をもって前記芯部材を遮蔽体に対して並置させ、

G 遮蔽体を前記ハブの一方に着脱自在に結合するための手段を設け、

H もって、蒸気を前記開口を通して芯部材内へ導入し、そこから芯部材の穴及び多孔質パッドを通して半径方向に排出させるように構成された

I 以上を特徴とするヘア・カーラー。

4 請求の原因4の事実は、当事者間に争いがない。

5 被告装置(一)ないし(三)を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙目録2の記載によれば、被告装置(一)ないし(三)は、大きさを異にするだけで、構造を共通にするものであるところ、被告装置(一)ないし(三)が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

(一) そこで、被告装置(一)ないし(三)が本件発明の構成要件Aを充足するか否かについて判断する。前掲甲第二号証の二(本件特許公報)によれば、本件発明は、ヘア・カーラー、特には、カーラーに巻かれた毛髪に熱い蒸気を当ててカール作用を行うように構成されたヘア・カーラーに関するものである、本件発明は、低圧の蒸気によって数秒間以内にカールできるように、前2で確定した特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、(1) 約三秒間という非常に短い時間で毛髪をカールし、その後、毛髪を最高一時間も要するドライヤにかける必要がなくなる、(2) きめの細かいカールが達成される、(3) ヘア・カーラーの構成部品は、簡単で、大量生産が可能であり、職業用にも家庭用にも使用することができるという作用効果を奏するものであることが認められる。そして、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラー」の意味について検討するに、当事者間に争いがない本件明細書の特許請求の範囲には、「蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラーにおいて、長さ方向に沿って1つ又はそれ以上の穴、及び一端に蒸気を導入するための開口を有する中空芯部材を設け、……使用者の頭皮を保護するために三六〇度未満の円周を有する蒸気を通さない蒸気遮蔽体を設け、毛髪を前記パッドに巻きつけてパッドと前記遮蔽体との間に位置させることができるように十分な遊隙をもって前記芯部材を遮蔽体に対して並置させ、……もって、蒸気を前記開口を通して芯部材内へ導入し、そこから芯部材の穴及び多孔質パッドを通して半径方向に排出させるように構成された」と記載されていることが認められ、また、前掲甲第二号証の二によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ヘア・カーラーに関し、特には、カーラーに巻かれた毛髪に熱い蒸気を当ててカール作用を行うように構成されたヘア・カーラーに関する。熱蒸気は、約三秒間カーラーの内部に給与され、その間に毛髪はカールされ乾燥する。そのあと、カーラーを取外すことができる。」(本件特許公報一頁1欄三三行ないし2欄一行)、「蒸気が頭皮に当てられるのを防ぐために遮蔽体が設けられる。」(同欄一〇行及び一一行)、「低圧の蒸気によって数秒間以内にカールできるように構成された本発明のヘア・カーラーは、従来のヘア・カーラーに比べて幾つかの利点を有する。本発明のヘア・カーラーは、三秒以内にカール作用を行うとともに、きめの細いカールを行う。」(同欄一五行ないし一九行)、「約三秒間蒸気をかければ、カーラーを分解してよい。かくして、カール作業が完了する。」(同二頁4欄三一行及び三二行)、「かくして、本発明のヘア・カーラーは、約三秒間という非常に短い時間で髪をカールし、かつ、その後髪をドライヤにかける必要がない。」(同欄三九行ないし四一行)と記載されていることが認められ、他方、前掲甲第二号証の二(本件特許公報)によれば、本件明細書及び願書添付の図面には、蒸気源から予め蒸気が供給されたヘア・カーラーを使用する(毛髪に巻きつける)という構成を採りうることを示唆するような記載は全くないことが認められる。以上認定の事実によれば、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用するためのヘア・カーラー」とは、ヘア・カーラーを使用している(毛髪に巻きつけている)ときに、蒸気源からヘア・カーラーに蒸気が供給されるという構成のヘア・カーラーを意味するものであって、蒸気源から予め蒸気が供給されたヘア・カーラーを使用する(毛髪に巻きつける)という構成のヘア・カーラーを含むものではないと認められる。この点について、原告は、本件発明の「約三秒間」という時間自体は、本件明細書の発明の詳細な説明に、「蒸気を約三秒以上当てた場合は、ヘア・カーラーの内部に水分がたまる傾向があるが、少量の水分は、パッド20によって補集され、そこに保持される。」(同二頁4欄三五行ないし三八行)と記載されているとおり、本件発明のヘア・カーラーによる熱固定のために十分な時間としての意味で使用されているのであって、本件発明において重要な意味を持つものではない旨主張する。前掲甲第二号証の二(本件特許公報)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明に原告主張の記載があることが認められるけれども、本件発明は、前認定のとおり、低圧の蒸気によって数秒間以内にカールできるように、前2で確定した特許請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、約三秒間という非常に短い時間で毛髪をカールし、その後、毛髪を最高一時間も要するドライヤにかける必要がなくなるなどと作用効果を奏するものであるから、本件発明は、右の作用効果を奏するようなものとして理解されるべきものであり、そうであれば、原告の右主張は、採用の限りでないといわなければならない。また、原告は、本件発明は、従来の単純な加熱カーラーの代わりに、巻き付けられた毛髪に水分と熱エネルギーを同時に供給することにより、極めて短い時間で強固なヒートセットを完了することができ、しかも、事後に毛髪を乾燥させる必要がないというヘア・カーラーを提供することを特徴とするもので、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用するための」との意味は、右の特徴を前提として解釈されるべきであって、ヘア・カーラーが、その使用状態において、常に蒸気源と機械的、物理的に連通していなければならないものではない旨主張する。しかしながら、本件発明の特徴が原告主張のとおりのものであるとしても、前認定のとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明の構成要件Aの「蒸気源とともに使用するための」とは、ヘア・カーラーを使用している(毛髪に巻きつけている)ときに、蒸気源からヘア・カーラーに蒸気が供給されるということを意味するものであって、蒸気源から予め蒸気が供給されたヘア・カーラーを使用する(毛髪に巻きつける)という構成のヘア・カーラーを含むものではないのであるから、原告の主張は採用の限りでない。

(二) これに対し、前掲別紙目録2の記載に前掲甲第三号証、第一一号証及び乙第八号証によれば、被告装置(一)ないし(三)は、蒸気源がヘア・カーラーとは分離して存在し、ヘア・カーラーを右蒸気源の上に置いて、ヘア・カーラーを所定時間温めて、予め蒸気源からの蒸気をカーラー内部に含有させ、その後に、右ヘア・カーラーを蒸気源から外し、毛髪に巻きつけて使用し、約三分ないし八分で毛髪をカールするというものであると認められる。そうすると、被告装置(一)ないし(三)は、本件発明の構成要件Aを充足しないものといわざるをえない。

6 原告は、被告装置(一)ないし(三)と本件発明とは、ヘア・カーラーを毛髪に巻き付ける前に熱エネルギーと水分をヘア・カーラーに供給するか(被告装置(一)ないし(三))、ヘア・カーラーを毛髪に巻きつけた状態で熱エネルギーと水分をヘア・カーラーに供給するか(本件発明)の手順の違いがあるにすぎず、ヘア・カーラー及びその多孔質パッドに水分と熱エネルギーを共存の状態で供給蓄積し、これを同時的に拡散し、巻回状態の毛髪に吸収させて短時間に所望の形態の毛髪のヒートセットを行うことにおいて、何ら変わるところがないから、別個の蒸気源で予め加熱加水するという被告装置(一)ないし(三)の手段は、本件発明の目的、作用及び発明の構成全体からみて、本件発明の「蒸気源とともに使用する」という要件と均等の手段と認められる旨主張するが、仮に原告のいわゆる均等の主張が、特許権侵害訴訟において適用することができる理論であるとしても、以下に説示するとおり、右理論は、本件においては、その適用を是認することが困難であって、原告の右主張は、採用することができない。すなわち、本件発明は、前5(一)認定のとおり、ヘア・カーラーを使用している(毛髪に巻きつけている)ときに、蒸気源からヘア・カーラーに蒸気が供給されるという構成を採用することにより、約三秒間という非常に短い時間で毛髪をカールし、その後、毛髪を最高一時間も要するドライヤにかける必要がなくなる、きめの細かいカールが達成される、ヘア・カーラーの構成部品は、簡単で、大量生産が可能であり、職業用にも家庭用にも使用することができるという作用効果を奏するものであるのに対し、被告装置(一)ないし(三)は、前5(二)認定のとおり、蒸気源から予め蒸気が供給されたヘア・カーラーを毛髪に巻きつけ、約三分ないし八分で毛髪をカールするというものであって、本件発明のように、約三秒間という非常に短い時間で髪をカールするという作用効果を奏するものではないのであるから、本件発明と被告装置(一)ないし(三)は、作用効果において異なるのである。したがって、原告の右主張は、その前提を欠き、採用することができないものといわざるをえない。

7 以上によれば、原告の特許権に基づく主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。

三 そうすると、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

別紙目録<省略 控訴審(平4(ネ)3991号)と同じ>

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